Nobuyuki_OSAKI
exhibition cv contact works


Solo Exhibition
大崎のぶゆき 「マルチプル ライティング」/ Nobuyuki OSAKI "Multiple Lighting"
2018年4月21日-5月26日 / April 21-May 26, 2018
YUKA TSURUNO GALLERY

Tue - Thu, Sat, 11am - 6pm; Fri 11am - 8pm 
* Closed on Sunday, Monday, and National holiays
Address :1-33-10-3F Higashi-Shinagawa Shinagawa-ku Tokyo Japan
http://yukatsuruno.com/pressrelease/pr069_multiple_lighting



これまで独自の方法である描かれた絵が溶けていく作品や、壁紙の柄や線のイメージなどがドロドロと流れ出していく作品など、絵画における虚構性や社会に対するリアリティについて問いかけ、不確かさや曖昧な感覚を視覚化する作品を発表してきました。最近の発表では、これらの「イメージが消失する」という表現がもたらす感覚や思考をより深め、記憶、時間などのモチーフやイメージの存在について考察する作品を展開しています。例えば、友人の記憶やアルバム写真、インタビューを出発点として制作される作品や、技法材料研究者の協力で準備した絵画素地にハンドクリームや手の脂で描く「見えない絵画」などを発表しています。
 
本展では、描いたドローイングが溶け流れていく瞬間を撮影した写真作品と、版画や古典技法を応用した特殊な絵画、そして鏡で構成される展覧会となります。これらのイメージは、友人や知人など場所や時間の異なる個人史を元に制作され、鏡は絶えず「現在」を映し出しています。また合わせて、2015年に関西で発表した「見えない絵画」である、<不可視/可視/未可視(2015)> も展示し、これまでの制作に対する思考を反芻した「過去/現在/未来」という概念から世界について問いかけようと試みます。 

タイトル「マルチプル ライティング」は、マサチューセッツ工科大学のブラッド・スコウ博士の「過去・現在・未来は同時に存在しており、スポットライトが照らすように現在がその空間を移動していく」という時間論である「相対論的スポットライト理論」にインスピレーションを受け、また空間を構成する作品の素材や技法に「光」を扱う ことから、「マルチプル/多数の・多様な」「ライティング/照明装置」として名付けられました。様々な方法で制作される作品で構成する空間は、確定した「過去・現在・未来」があるのではなく並行世界の可能性、すなわち「スポットライトが当たる現在は無数の可能性がある」ということを示唆します。表現がもたらす「ある/ない」「消える/消えない」「見える/見えない」「光/闇」などの様々な両義性の 「間」によって、この世界について思考する装置となるのではないでしょうか。






untitled album photo
C-print, 2017





untitled album photo
1piece: 8.6×5.5cm (film size) /29×39cm (flame size)
instax film, plywood, flame
2016


「展覧会についてのメモ」

 自分を座標軸に思考することで作品を展開していますが、これまでも僕がいる環境や状況からアイデアや思考が転がっていくことが多い。2013 年に発表した<Trace Trip, Time capsule>は友人や知人へのインタビューや昔の写真や記憶を元に、現地へ旅に訪れたり、イメージを引用したりしながら「トレース」しつつも実際は不確かな記憶によって変質する物語を新たな物語として再構築するという方法で制作された作品です。同シリーズは、個展『Reparatur-Trace Trip,Timecapsule』(YUKA TSURUNO GALLERY、2015)でも発表した作品ですが、僕が名古屋と大阪を拠点として活動する中で、震災を機にこの自身と密接に関係のある中部と関西で予見されている「東南海地震」について改めて考えさせられて制作にいたったものでありました。この「東南海地震」
とは今後30年以内に起こる確立が非常に高いと予見されている地震ですが、太刀打ちのできないカタストロフをまざまざと見せられた震災の記憶に、私はこの予見に対して非常に強い危機感をもっています。このような感覚から、もしかしたら起こるかもしれない未来のために自身の周りの「記憶」を制作し、震災復興の中で再構築していく記憶のメタファーとして提示することによってこの事象について考えようと試みた作品でした。
 この<Trace Trip, Time capsule> の作品と並行して展開することになった<untitled albumphoto> は、1 プロジェクトを一人の人間の記憶をトレースする作品として展開した前述の<tracetrip, time capsule> とは異なり、自身の周りの記録を一冊のアルバムに纏めるように、私の周りにいる人たちや関係する場所など複数の記憶を集めていく試みとして取り組んでいます。<untitled album photo (at Aichi University of the Arts)> は、関西から名古屋に来る契機となった在籍する
愛知県立芸術大学の記念事業への出品依頼から、この場所から生まれる記憶をモチーフに構想、出発した作品です。愛知芸大は昭和40 年代に開校し、現在では多くの芸術家を輩出しています。しかしながら、長らく在籍することになったものの、赴任した当初は大学や人のことも何も知らない状況で、現在においてもあまり僕自身この場所についてよく知らない。そのようなことから、部署に残っている写真やアルバムを借りたり、在籍する学生達に協力してもらって彼らのスナップ写真などを提供してもらう事から始まりました。
 詳しくは割愛しますが、それぞれの部署にあった昔の写真や記録は、現在と全く異なった風景が広がっていました。また、この大学は日本の伝統とモダニズム建築の融合を図った吉村順三設計による建築ですが、建築だけではなく大学に残っている設計図面を見て、何気なく使っている机や椅子などは吉村順三が大学のために設計した家具類であったりと様々な発見がありました。 過去と現在の人々の記憶をごちゃ混ぜにしながら場所というカテゴリーでフォーマットする── 当初このように未来のために過去から現在を一つのアルバムをまとめるように制作しようと考えていましたが、現在の時間軸でしか知らない僕自身は驚きと共にこれらの資料になぜか「懐かしさ」を感じました。おそらくは知識や経験からくる共鳴であると思いますが、この自身の記憶を呼び覚ますように感じることについて、過去の海外での個展の際に、日本人のプライベートな記録と記憶をトレースした< Trace Trip, Time capsule > を見たドイツ人が「懐かしい」と僕に伝えてきたことを思い出して、まるで現在の自分が今いる場所の過去の記憶に接続し、異なる時空が繋がって記憶が生まれていくように感じたのでした。

今回の個展では、日頃僕が使っている吉村順三設計の事務机と<untaitled album photo>を出発点に、鑑賞者を取り込みながら絶えず現在を映し出す<観測者>や、「見えない絵画」もしくは「未来に見えるかもしれない絵画」の<Display of Surface - 不可視/可視/未可視(2015)>を出品しつつ、これまでの制作に対する思考を反芻する展覧会として「過去/ 現在/ 未来」という概念からこの世界について問いかけようと考えています。過去も現在も未来もパラレルにあって、ひょっとすると隣に未来と過去とが繋がっているのかもしれない。過去から未来が作られるだけではなく、未来が過去を変えていく。時間や記憶をモチーフに、変化する流動的な「過去/ 現在/ 未来」の可能性を示唆したいと考えています。

大﨑のぶゆき

 


不可視/可視/未可視  2015
Vaseline, Fingerprint, Chalk grounded canvas
Aluminum powder, Hand cream, Fingerprint, Paperback ("Das Schloss" by Franz Kafka)